イノベーションと知的財産権
イノベーションのライフサイクル
イノベーションとは革新的という意味であり、新製品を創出し社会や需要者に新たな価値を提供することです。企業がイノベーションを起こすことによって、競合よりも優位性を持つことができます。
イノベーションのライフサイクルは、先行技術と後発技術との間が不連続となります。例えば、VHSのビデオテープがTV録画の主流でしたが、2000年代に入りHDDレコーダーやDVDが出てくるとVHSビデオテープは廃れていきました。VHSビデオテープの技術が発展してHDDレコーダーが生まれたわけではなく、両者の技術的進歩は不連続です。最近では、DVDからNetflixやHulu等のインターネットからの配信事業への移行が起きています。
イノベーションの段階
イノベーションでは、初期段階では技術進歩はゆっくりですが市場が大きくなって企業間の競争がはげしくなると、各社が差別化を図るために積極的な技術開発を行い技術が急速に進歩します。iphoneも数年の間に多数のスマートフォンが販売され、大幅な技術革新がもたらされました。
イノベーションの初期段階では特許の数としてはあまり多くありませんが、技術の基幹となる基本特許が数多く出願されます。技術が進歩していく段階では、特許出願の数は大幅に増加しますが基本特許から派生した改良発明であることが多く、権利の強さや重要性としては基本特許のほうが上です。
技術の進行速度が遅くなってくると、技術開発への投資も積極的に行われなくなり、それに伴って特許出願の数も減少してきます。特許権の維持期間は出願日から20年であるため、初期段階で取得された基本特許は存続している可能性が高いです。つまり、基本特許を押さえておけば、長きにわたって技術を独占することができます。
持続的イノベーションと破壊的イノベーション
持続的イノベーション
持続的イノベーションとは、需要者が求めるニーズに対して、企業が切磋琢磨して技術開発を行い製品の付加価値を向上させることです。持続的イノベーションでは、現在ある製品に対してさらなる改良を行った場合であり、例えば長時間録画可能なDVDなどがあります。
持続的イノベーションでは、製品に新たなる機能が付加されるため、改良発明に関する特許が多く出願されます。改良発明に関する特許の留意点は、他社の特許との間で利用・抵触の関係にあるか、ということです。
改良発明であっても、他社の特許を利用した発明である場合には、自社で開発した製品でも他社の特許を侵害します。つまり、特許として成立したとしても、他社の特許権を利用している場合は、自由に製品を製造・販売できません。
破壊的イノベーション
破壊的イノベーションは、既存の技術の延長線上にはない全く新しい製品・サービスを生み出すことです。VHSの録画機器からHDDへの録画機器への技術移行が挙げられます。一般に、大企業は破壊的イノベーションに対応することが難しいといわれています。これは、多くの時間とコストをかけてきた製品にこだわるあまり、新しい技術の波に乗り遅れてしまうことが原因です。
例えば、富士フィルムはフィルム製カメラからデジタルカメラへの技術移行が上手くいかず経営危機となりました。今でこそヘルスケア分野での業績が非常に好調ですが、イノベーションのジレンマは大手であっても足元をすくわれることがあります。
破壊的イノベーションが起こると、基本的な特許が出願されます。近年は技術開発のスピードが非常に速いため、短期間に多くの特許が出願されることがあります。特許出願は、出願してから公開されるまで1年6か月のタイムラグがあるため、近い時期に一部の技術分野で多くの特許が出願される場合は、出願したけど実は他社のほうが先に出願を行っていたという事態が起こります。
この場合には、後願の特許が拒絶されますので、権利範囲を狭めて特許の権利化を図ることが考えられます。