特許事務所におけるRPAを使った事務の自動化

自動化概要

Power Automate for Destop

弊所では、事務処理の自動化ツールとして、MicrosoftのPower Automate for Destopを使用しています。ノーコードで利用することができ、プログラムを全く知らない当方でも、自動化プログラムを組んで事務負担を軽減することができます。しかも、このアプリケーションは無料で誰でも使用することができます。プログラムのコードを覚えることなく感覚的な操作で全てを自動化することができるので、とてもおすめです。

ただし、1つのフローで全ての書類を作成するとなると、かなり膨大な処理が必要となります。従って、弊所では処理する事案ごとに個別にフローを作成しています。例えば、以下は作成したフローの一部です。4法ごとに全ての手続きで作成したため、全部で40個ほどのフローがあります。

  • 特許出願(報告書、請求書、メール下書き作成)
  • 拒絶理由通知(報告書、メール下書き作成)
  • 特許査定(報告書、特許料納付書、メール下書き作成)
  • 年金支払(報告書、請求書、メール下書き作成)

自動化の内容

RPAで、当方が組んだプログラムフローを説明したいと思います。全てを自動化することも可能ですが、条件分岐が複雑化するとともに、特許庁の仕様変更等でプログラムが動かなくなることを懸念して、必要最小限の範囲を自動化しています。

【自動化した作業】
・報告書の作成
・請求書の作成
・メール報告の下書き
・特許庁提出書類(年金や登録料の納付など一部)の自動作成

【自動化していない作業】
・インターネット出願の発送書類の受領
・報告書や請求書のpdf化とメール添付
・メールの発送

報告書や請求書は、誤記やプログラムの不具合があるかもしれないので、下書きとして作成しています。pdf化及びメール送信などは、最終確認を行った後に人が行っています。 すべてを自動化するとミスがあったときに怖いので、最終チェックは人が行っています。

自動化フロー

特許庁の受領データを指定のフォルダに特定の名称で保存し、自動処理の前準備が完了します。Power Automate for Destktopを起動して、受領データに該当するフローを実行すると、自動的に報告書、請求書、特許庁提出書類、メール下書き、が作成されます。どの書類を作成するかは、受領データごとに異なります。

自動化するための流れは、おおまかに以下の通りです。

特許庁受領データから情報抽出

特許庁の受領データをpdf化して出力し、OCRで読み込みテキスト化、条件を指定して必要情報を抽出します。必要情報とは、以下のいずれかです。

  • 整理番号
  • 出願番号
  • 登録番号(特許番号)
  • 提出日

特許庁受領データからの抽出は、データベースで詳細な情報を検索するため情報が抽出できれば大丈夫です。細かな情報は、データベースから引っ張ってくれば問題ありませんので。特許庁書類で注意することは、書類によって抽出した情報の前に空白があったりなかったりすることです。後のデータベースの参照時にトラブルとなりますので、この段階で書式を統一しておいたほうが後々楽です。

データベースを参照して必要情報を抽出

先のステップで抽出したデータに基づいて、データベースで顧客に関する情報を抽出します。具体的には、以下の情報です。

  • 会社名
  • 担当者名
  • 発明の名称(商標、意匠に係る物品等)
  • 応答期限
  • 識別番号

報告書、メール、請求書等の記載事項に応じて、必要となる情報を抽出します。報告書のコメント、請求書の金額等は、それぞれ個別のデータベースを作成し、随時参照するように設定しています。そうすることで、金額の更新、コメントの修正などを簡単に行うことができます。

データベースを抽出するとき、大文字小文字、スペースの有無、全角半角など、少しでも相違があるとヒットしないことがありますので、継続的にフローのメンテナンスを行っていく必要があります。

データベースに情報を書き込み

データベースに、新たに設定された期限などの情報を書き込みます。年金納付の場合は次回納付期限、拒絶理由通知の場合は応答期限、査定の場合は料金納付期限、審査請求期限などです。次回期限の計算も、全てプログラムが勝手に計算してくれますので、ミスがありません。日付の計算は、抽出した日時をdatetimeに変換し、特定の日数を加算し、テキスト変換してデータベースに書き込みます。

生き死に等のステータス情報、応答期限の削除、特許番号の登録など、細かな入力事項についてもすべて自動で入力されます。

書類の書式に合わせて書き込み

報告書や請求書のひな形を予め作成しておき、抽出した情報に置き換えます。請求書の項目や金額、減免有無なども、すべてデータベースに記憶されており、前のステップで拾ってきた情報を貼り付けるだけの作業です。

書き込みには、テキストの置換のコマンドを使っていますが、他のやり方もあると思います。特許費用減免の有無、商標の納付年数、年金の納付年数など、受領データの情報次第で出力が変わるものについては、分岐してすべての条件を満たすようにフローを作成します。

データの保存

報告書、請求書等を指定のフォルダに保存します。このとき、確認して修正するので、ファイルは開いた状態のままのほうが楽です。

確認作業と最終処理

Power Automateが8割以上の事務処理を行ってくれるので、実際行う業務はほぼ確認作業です。あと、報告書にpdfのページ数を入力しています。弊所の報告書はページ数を入力する書式なのですが、どうしてもPower Automateでpdfのページ数が出力できなかったので手入力です。いずれ、出来るようになると思っています。

さいごに

全ての事務作業を自動化するのは2か月程度の期間を要しましたが、非常に業務が効率化されました。

また、中小企業診断士として中小企業のDX化のサポートを行っていますが、今回の自動化がコンサルティング業務にとても役に立っています。やはり、理論だけを理解するのと、実際に手を動かして知識を習得するのと、では雲泥の差がありますね。

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